鉄の性質  ②鋳鉄と鋼
2017.12.19
 鉄の一般的なイメージは、「硬い」、「強い」、「冷徹」等ですが、これらは「鉄の強度が大きい」という鉄の性質から生まれてきた言葉だと思います。
では、強度が大きいとはどういうことでしょうか。一般的には強度が大きいとは、衝撃や加工による変形が起きにくい性質をいいます。この強度を定量的に表す場合、引張試験や衝撃試験を行い強度を計算します。
                               
 鉄の強度に影響を与える一番大きな要因は、鉄中に含まれる炭素の量です。この鉄中に固溶(固体が溶けるという意味)している炭素の量で、鉄の性質が大きく変わります。この点が、鉄の最大の特徴になっています。
 鋳鉄と鋼は、鉄関係でよく使われる言葉ですが、鋳鉄と鉄の大きな違いは、固溶炭素量です。鋳鉄と鋼の固溶炭素量の境界は約2.1%で、鋳鉄は炭素量2.1%以上、鋼は炭素量2.1%以下といわれています。鉄は、炭素を非常に多く固溶できる金属で、6.7%迄固溶することができますが、実用的には、炭素量2~3%の鋳鉄と炭素量1.2%以下の鋼がよく使われます。
 鉄は、炭素量が増加すると、次第に強度を増し、ある上限を超えさらに炭素量が増えると脆くなってきます。この脆くなる上限の炭素量が、だいたい2%程度と考えられます。したがって、強度が必要な用途には、炭素量が2%以下の鋼が使われています。
又、鉄は、炭素量により鉄の組織が大きく変わります。この組織の違いも鉄の大きな特徴です。鉄の炭素量による組織の違いは、鉄-炭素状態図に表されています。固溶炭素量の順番に、ほとんど炭素を固溶しないフェライト(α鉄)、炭素を多く固溶するオーステナイト(γ鉄)、炭素を一番多く含む化合物のセメンタイト(Fe3C)です。
鉄-炭素系状態図を見てください。状態図の左端の炭素量の少ない領域にフェライト、フェライトの右上にオーステナイト、右の方にセメンタイトの領域が示されているのが分かると思います。又、鉄の固溶炭素量の上限は炭素量6.7%であり、それ以上の状態図はありません。この理由は、全ての鉄が炭素を一番多く含むセメンタイトとなった場合、鉄の固溶炭素量が6.7%と計算されるからです。
2017.12.19 10:58 | 固定リンク | 鉄の科学
鉄の性質 ①鉄の長所と短所
2017.12.12
 鉄は使用量の一番多い金属です。その理由は、コストが安く、強度が大きく、加工し易い性質にあります。この長所を生かして、建築、自動車等の車両、造船、橋、パイプ等多岐に渡って使用されています。又、磁性を持つことも鉄の長所であり、電気電導性、熱伝導性が良いことも、長所の一つです。
しかし、鉄にも短所があります。最大の短所は、錆び易いことです。鉄は酸素と非常に結びつきやすい性質を持ち、これが錆び易い原因になっています。この錆易さを改善する為に色々な改善がされてきましたが、代表的なものが、ステンレスとめっきです。又、鉄には、ある特殊な条件で、急に強度が落ちる脆性という性質があり、これも大きな短所の一つです。

身近な自動車を例にとり、鉄の長所を考えてみましょう。強度は自動車にとって非常に重要で運転者の安全に直接影響します。この為、自動車の車体、フレーム、外板及びエンジン、駆動系で合わせて約70%に鉄系材料が使用されています。自動車は鉄と縁が深いと言われる所以です。鉄のトン当たり単価は約10万円です、自動車には約1トンの鉄が使われているので原料コストは約10万円になります。
表を見てください。もし、全ての鉄系材料をアルミニウムに変えようとすれば、原料コストは約3倍の30万円になります。又、アルミニウムは鉄のようにプレス加工も難しく、溶接性も悪いので、大規模な製造ラインの改造も必要でさらにコストアップの要因になります。このことが、自動車が鉄系材料を多く使う理由になっているのです。
             
区分・・・Fe・・Al・・Cr・・Cu・Zn・Pb・・Ti・・Ni
生産量 100 2.1 1.2 1.1 0.7 0.3 0.3 0.1
コスト・・・1・・・3・・15・・10・・6・・4・・30・・20
 鉄と他の金属の比較(生産量はFeを100、コストはFeを1とした場合の値)



2017.12.12 08:58 | 固定リンク | 鉄の科学
磁性
2017.02.19
磁石になる性質を磁性と言い、磁性には、常磁性、強磁性、反磁性があります。

常磁性とは、磁石のない状態では磁化せず、磁石を近づけると弱い磁石となる性質を言います。磁化の主な原因は、原子中の電子の自転(スピン)の影響です。電子は、負の電荷を持ち自転(スピン)をしているので、磁気モーメントが生じ、電子一つ一つが小さい磁石になっています。磁石のない状態では、この電子の磁石の方向はバラバラで磁性を示しませんが、外からの磁石の影響で、電子の磁石の向きが揃うと全体が磁石として振舞います。この常磁性を示す金属は、鉄と金属の大半(遷移金属等)です。

強磁性とは、磁場のない状態でも常に強い磁性を示す性質です。この性質は、ほとんどの電子の磁石の向きが揃い、かつ動かなくなる時発現し、強い永久磁石になります。この性質を示す金属は、鉄、コバルト、ニッケルまたはそれらの合金等です。鉄の場合、通常は常磁性ですが、強い磁場の中で、熱処理や塑性加工等行うと強磁性を発現し永久磁石となります。

常磁性と強磁性の主な原因は、原子中の電子の自転(スピン)と説明しましたが、この電子は不付電子に限られます。不付電子とは、逆方向に自転(スピン)している電子のペアーを持っていない電子です。通常の電子は、自転方向が逆な2個の電子がペアーで存在する対電子になってますが、金属の元素の多くは、いくつかの不付電子を持っており、これが磁性の原因となっています。ちなみに、鉄原子は、4つの不対電子を持っています。

反磁性とは、磁石を近づけると磁石とは逆方向に磁化され、磁石に反発する性質です。この反磁性は、通常非常に弱く、不対電子をもたない物質は全て持っています。この反磁性の原因は、レンツの法則により磁石を近づけるとその磁場を打消す方向に磁場が発生することで説明されます。強い反磁性を示す物質は、熱分解カーボン、超伝道体等があります。
2017.02.19 16:26 | 固定リンク | 鉄の科学

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