鉄の性質  ③熱処理
2018.01.26
前節で、鉄の炭素量と組織について説明しました。
再度、鉄-炭素系状態図を見てください。この図の左中央部のオーステナイト迄加熱し、このオーステナイトから、空気中で自然冷却することを焼きならし、自然冷却よりゆっくり冷却することを焼きなましといいます。

例として、状態図のS点(C:0.77%)の少し上のオーステナイトから、冷却していく場合を考えてみましょう。この場合、温度がS点以下になると、オーステナイト組織が、フェライトとセメンタイトの組織に変わります。この組織が変化することを変態といい、この場合の変態をパーライト変態といいます。パーライトの結晶組織の黒い線状に見えるのがセメンタイト、白く見えるところがフェライトです。

このパーライト変態は、冷却速度が速い程微細化し、より硬く(強度が高く)なるので、焼きなましより焼きならしの方が、パーライトが微細化し、より硬くなります。
この空気冷却などで得られる微細なパーライトは、ソルバイトと呼ばれます。

冷却速度をさらに上げ、水冷却をすることを焼き入れといいます。焼き入れするとオーステナイト組織が、マルテンサイト組織に変態します。このマルテンサイト組織は非常に硬く、日本刀の焼き入れ時にできる組織です。しかし、硬いと同時に脆いので、この脆さを改善する必要があり、再度700℃未満に加熱し徐冷します。この熱処理を焼き戻しといい、焼き入れ後に行う熱処理です。この焼き戻しにより、組織は、硬く、強靭になり鋼の性能を発揮します。
                         
以上のように、オーステナイトからの冷却速度の違いにより、鋼の組織と硬さ(強度)が大きく変化します。冷却速度の小さい順に、組織名を並べると、(パーライト)→(ソルバイト)→(トールスタイト)→(マルテンサイト)になります。
トールスタイトとは、パーライトやソルバイトと同じものですが、一層細かな組織です。以上が熱処理の違いによる組織の変化の説明ですが、炭素量の違いでも組織は変わります。もう一度、状態図を見てください。炭素量0.77%のS点より炭素が少ない領域では、フェライトが多くなりパーライト+フェライトの組織になり、S点より多い領域では、セメンタイトが多くなり、パーライト+セメンタイトの組織になります。

このように、鋼の組織は、炭素量と熱処理方法で大きく変化します。これが鋼の最大の長所であり、特徴です。

日本の伝統工芸品である日本刃は、4種類の鋼(心金、棟金、刃金、側金)を鍛錬し、日本刀の形に仕上げます。これを約800℃迄加熱し、水冷して焼き入れます。焼き入れた刃金にはマルテンサイトが生成し非常に硬くなります。しかし、同時に脆くなるので約150℃迄再加熱し焼き戻しを行い、強靭な刃先に仕上げます。刃金の炭素量は1.0~1.5%であり、急冷するのでパーライトは形成されず、マルテンサイトが形成され非常に硬い組織になるのです。
                           

2018.01.26 17:46 | 固定リンク | 鉄の科学

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